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住宅宿泊事業法

住宅宿泊事業(民泊)

1 住宅宿泊事業(民泊)とは

(1)内容

・住宅において宿泊料を受けて宿泊サービス

・年間営業日数が180日以内に制限される

・旅館業法の許可が不要である

(2)経緯

・これまで旅館業法の都道府県知事の許可を受けなければ宿泊事業はできなかった

・訪日外国人の急増により、宿泊施設の不足が切実な問題となっていた

・観光立国、地方創生の観点からも、多様化する宿泊ニーズに対応が求められた

・平成30年6月15日に、住宅宿泊事業法が施行された

 

2 民泊を行うための諸制度

(1)住宅宿泊事業法(民泊新法)

(2)旅館業法における簡易宿所

・ユースホステルやカプセルホテル等

・旅館業法の許可がいるが、年間営業日数180日制限がない

(3)特区民泊

・国家戦略特別区域法による認可が必要

(4)その他(農家民泊、イベント民泊等)

 

3 住宅宿泊事業法に基づく民泊

(1)「住宅」の条件

①家屋内に台所、浴室、便所、洗面施設その他の生活の本拠として使用するに必要な設備があること

②現に生活の本拠として使用されている家屋、入居者の募集が行われている家屋、随時利用される家屋等

・民泊専用マンションは認められない

 

(2)営業日数規制

・180日を超えてはならない

 

(3)条例による規制

・条例によって、民泊事業が可能な地域を規制し、日数の制限をすることができる

・東京、京都、神奈川、北海道等の条例が制定されているためチェックが必要

 

4 民泊事業と短期賃貸事業との関係

(1)民泊事業の法的性格

・単なる賃貸借ではなく、ホテルと同様の宿泊サービスと考えるか、賃貸借と宿泊サービスの混合契約と考えるか

 

(2)短期賃貸借契約との関係

・住宅宿泊事業法上の届出や旅館業法上の許可なく、定期賃貸借契約(1週間の定期借家契約など)で民泊事業はできないか

・これまでもウィークリーマンション経営は旅館業法が適用されるのかという場面で問題となってきた

 

5 住宅宿泊事業に対する規制

(1)都道府県知事等への届出

・届出書の他、利用できる私法上の権利を有することを証する書面(転貸の許可書、マンションの規約等)必要

 

(2)厚生労働省の規則、国土交通省の規則、住宅宿泊事業法規則などの規制

・宿泊者の衛生確保(宿泊者の人数制限、定期清掃等)

・宿泊者の安全確保(非常用照明、避難経路の表示等)

・外国人向けの外国語の案内の設置

・宿泊名簿備付

・標識の提示

・周辺環境への配慮等

 

住宅宿泊管理業・仲介業に対する規制等

1 住宅宿泊管理業に対する規制

(1)住宅宿泊管理業とは

・住宅宿泊事業者が遠隔地に所有する別荘などを民泊に利用する場合などに、委託を受けてその管理業務を行う者

・国土交通大臣の登録を受ける必要がある(法22条)

 

(2)住宅宿泊管理業者に委託が必要な場合(法11条、規則9条)

①届出住宅の居室の数が5室を超える時

②届出住宅に人を宿泊させる間、不在となる時

 

(3)管理業者に対する規制(国交省規則等)

・名義貸しの禁止

・誇大広告の禁

・管理業務の全部の再委託の禁止

・標識の設置等

 

2 住宅宿泊仲介業者に対する規制

(1)住宅宿泊仲介業とは

・事業者に代わって宿泊利用者との交渉、マッチング等を行う者(法2条)

・観光庁長官の登録が必要(法46条)

 

(2)仲介業者に対する規制(国交省規則等)

・名義貸しの禁止

・仲介業約款の届出、公示

・料金の公示

・仲介契約締結前の書面の交付

・標識の掲示等

 

3 罰則

(1)住宅宿泊事業者に対する罰則

・1年間に180日以上宿泊させた場合、旅館業法3条1項に違反し、6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、または併科される(旅館業法10条1項)

・虚偽の届出をしたものは、6ヶ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、または併科される(法73条1号)

 

(2)住宅宿泊管理業者に対する罰則

・登録を受けなかった場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、または併科される(法72条1項)

 

(3)住宅宿泊仲介業者に対する罰則

・旅行業法又は住宅宿泊事業法上の登録を受けずに営業を行った場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、または併科される(旅行業法74条1号)

・不正の手段により登録を受けたものは、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、または併科される(法72条2号)

 

4 民泊事業に対する差止め・明渡し請求の実務対応

(1)区分所有法57条に基づく差止請求

・区分所有マンションで、マンションの管理規約に反して民泊事業を行った場合に、停止請求できる

・マンション組合総会の決議が必要

 

(2)賃借人が賃貸借契約に違反して民泊営業を行っていた場合

・賃貸借契約を解除した上で、賃借人(民泊業者)に対する物件の明渡し判決を得ても、宿泊利用者に対して明渡しの強制執行はできない

・そこで、「債務者不特定の占有移転禁止の仮処分」(民事保全法25条の2)を申立て、宿泊利用者に対する明渡しを命じる判決を得ることが考えられる

 

賃貸物件・区分所有マンションを利用した民泊の問題点

1 賃貸住宅を利用した民泊営業の問題点

(1)賃貸借契約における無断転貸

・住宅宿泊事業者は届出書に、転貸の承諾書の添付が求められている

 

(2)用法遵守義務違反

・賃貸借契約の使用目的に「居住のみを目的として使用しなければならない」と定められている場合、民泊に利用したときには用法遵守義務違反として解除される可能性がある

 

2 区分所有マンションを利用した民泊の問題点

(1)届出における必要書類

・区分所有マンションで民泊事業を行うには、マンションにおいて、民泊事業を禁止していない旨を証明する書類を提出する必要がある

・具体的には、マンション管理規約の写し及び民泊を禁止しない旨の意思表示を記載した書面(規約に禁止条項がない場合)

 

(2)管理規約の解釈、改正

・管理規約に「住宅として使用し、他の用途に供してはならない」と定められていても、かならずしも民泊を禁止していると解釈できない可能性がある。

・民泊を禁止するために、総会を開催して、マンション管理規約を改正して、禁止条項を明文化しておいたほうが良い